漠とした議論

 漠とした議論は、問題提起をしている体だけを見ると無害であり、世の中にゆとりがあれば、そうした大所高所の、現実の解決策にはつながらない議論に付き合うことは可能であるが、現在の感染拡大のような非常時にあると、手持ちの貧弱なツールにより日々、というか時間単位で目の前の危機的状況をより危機的なところに行かせないための努力をしている人々との距離が遠くなる一方のように見える。感染対策の司令塔はどこも多忙で、まさに心を失った状態であり、かといって現場に権限を下ろすだけの覚悟も理論武装も手続きを取るだけの余裕もない。指揮命令は世の中に渦巻く漠とした怒りの矛先が来ないことのアリバイ作りに主として用いられ、最前線にとって必要な指示が届くことはほとんどない。今は現場の経験と耐久力と、さらには担当者個々人の気力と体力によって戦線は維持されている状態である。強制力のある規制をと知事会などは国に要望しているが、憲法の制約があって戒厳令のような強制力のある手続きができない状況にあり、そのレベルになると特別措置法で何とかなるとかいうレベルではない。憲法を超越した特別措置法を制定し後で違憲判決を受けるぐらいの、国家レベルでの違憲行為を確信的にやらないと無理である。今できることといえば、例えば保健所の相談窓口の一人あたりの通話時間を5分に制限して、不毛な苦情電話などは強制的にシャットダウンするとか、国会や地方議会における似たような質問はさせない、そもそも会期を短縮したりオンライン開催で必要最低限の質疑だけ行うといった、コストのかかる割に問題解決につながらないことは取捨選択して、やらないと決めていかないと、できもしないことにエネルギーを使う余裕はないことをもっとしっかり認識すべきである。政治家としては批判を浴びる対応なので及び腰なのは仕方ないが、そこはみんなで渡るしかない。デジタル庁も鳴り物入りで発足したが、現状の危機には何の役にも立っていない。民間の力を借りれば解決できると考えることが素人の発想であり、そんなにうまくいかないことは、PFIとか指定管理者、外部委託などで経験してきたはず。超一流の人材であれば、どこであれ即応できると思うが、民間企業も自分たちの社の利益に大きな貢献をもたらす超一流の人材を、混成部隊でうまくいくかどうかわからない役所などに差し出すはずがない。さまざまな幻想を捨て、とにかく現実できることをやっていくしかない。こうしている今も、各所で音を立てずに戦線が崩壊している。

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