市立旧校舎3

 僕は朝の図書資料係として、朝7時に登校し、図書室の開館の準備をして司書教諭に引き継いでからクラスに向かう毎日を送っている。夕方は別な図書資料係が入っているようだが、会ったことはない。朝の図書資料係が図書室でやることは特にない。この建物の厳重な警備を考えると、軍や警察の特殊部隊でもない限り、侵入することは困難だろう。僕はいつものように旧校舎の図書室の奥にある地下通路に入ると、ひんやりとした空気が僕を包む。この先の壁は、許された人間の身に開かれる扉だ。僕は扉の奥に進み、エレベーターを上がって自分の執務室に入る。このエレベーターも登録した人間のためにしか作動しないし、用事のない階で降りることができない。朝の1時間あまりの間に、僕は与えられた審議案についての判断をする。僕自身もいろいろ勉強しているが、法律や制度改正は複雑すぎて簡単には理解できない。今のところは審議委員補佐の意見を参考にして、判断している。少なくとも今の自分には身の丈にあっていないことをやっていると感じるが、これは国際的な取り決めで、僕らが判断しなければ国の運営が立ち行かなくなるらしい。大人の事情はよくわからないし、どうしてそこまでこの国が追い込まれることになったのかも知らない。大人たちはさらに上の世代の大人たちの愚策と無為を批判しているが、自分の生きている間だけは行政サービスの水準を下げてほしくないという発想は、個人としては至極まっとうな考え方だろうと思う。公のためを思い自己を犠牲にするというのは、その行為は称賛されるものだが、そうした行為に自分の存在価値を見出しているわけで、そういう価値観を持つことを多くの人に期待するのは無理だろう。人は基本的に自己中である。僕もこの生徒会政策審議委員になったのは、自分の利益になると思ったからで、公益のためとか考えたことはない。

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