市立園が丘高校はその名のとおり、丘の上に校舎が建っている。正門は丘の下を通る道路に面しており、正門から登校する生徒は校舎まで階段を上がることになる。正門とは反対側の、学校の裏手は閑静な住宅街で、住宅街の中にもう一つの入り口がある。校舎の奥には、旧市立校舎と呼ばれる建物があるが、周囲は高い鉄条網で覆われており、生徒はもちろんのこと、教職員も簡単に立ち入ることができない。この旧市立校舎については、地図上記載されているだけで、先輩や教師に聞いても「以前使われていた校舎らしい」ということしかわからない。同じクラスの冒険好きの男子が鉄条網の裏手の崖から上がって侵入を試みようとしたが、どこにも立ち入る隙がなかったらしい。ただ、校舎の入り口は閉ざされており、1階部分は後から設えたらしい壁に周囲を覆われているので、1階からは入れそうにないとの話をしていたらしい。
その男子の観察は正しい、旧市立校舎は仮に鉄条網を飛び越えて敷地内に立ち入ったとしても、1階からは入れないし、2階も3階も4階も、そして屋上についてもセキュリティが施されている。ただ、この建物の正体を知ったうえで侵入されたことはない。仮に敵対勢力が武力をもって侵入してきた場合も、反撃するだけの武装は施されているが、それを使うのは最終手段であり、反撃している間に校舎内の人間は撤退し、旧市立校舎の主要施設は爆破されることになっている。
私は授業が終わると、いつものように図書室に行き、図書資料整理係として返却本のチェックをして書棚に戻し、図書室の入り口に「利用時間は終了しました」の札を掲げて施錠する。図書室の奥に小さな書庫があり、そこから地下の階段を下りて地下通路を進む。地下通路の途中には扉があり、私が扉の前に立つと5秒数えたところで扉は静かに両側に開く。扉は行き止まりの壁のようでもあり、有資格者にしか扉を開かない。私は有資格者であり、旧市立高校の中にある高校生による生徒会国政審議委員会のメンバーの一員に名を連ねている。
生徒会といっても、表の生徒会のように学校の学生自治的な役割を担っているわけではない。生徒会会長をはじめ他の役員も私たちの存在は知らない。図書資料整理係は3人がローテーションで回しており、私以外の二人はおそらく同じ役目を担っているのだと思うが、実は二人のことはクラスも学年も違うのでよく知らない。国政審議委員会は個別の執務室になっていて、行くと自分の審議すべき事案があり、それを審議委員補佐の助言をもとに判断するようになっている。審議委員補佐は高校生ではなく大人のようだが、コメントと参照資料が記載されているだけで、会ったことはない。ただ、政府案には否定的な意見も出しているので、国の政府の役人というわけではないようだ。
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