保健所は本来、感染症対策の最前線として、ワクチン接種については最優先されてしかるべきだが、現実には後回しにされており、個々の判断で大手町に行ったり、地元の集団接種会場を予約したりということで、接種を進めているようだ。ワクチンの総量が足らないため、首長レベルは政治的な責任から率先してワクチンを打てない状況にあり、保健所と言えども住民サイドにワクチン接種できないことの不満が溜まっている状況では、大手を振ってみんなで接種するのは難しいのだろう。ある程度の規模の民間企業であれば、社員を守るために積極的に職域接種を進め、2回目が終わっているところも少なくないようである。自治体としても保健所職員のワクチン接種を優先したいという意向はあるのだろうが、住民からの反発を考えると、十分行き渡ってからということになるのだろう。成果を出せずに肩身の狭い社員が、上司が残っているからという理由で何となく残業しているという構図に似ている、根性論の悪しき構図に陥り、結果的に人を守れていない状況。もっと致死性のウイルスが蔓延しても、ワクチン接種は劣後される可能性が高いと考えると、今後の人材確保でも支障を来すだろうと思う。
ちなみに、近年のこの国の公衆衛生水準は高かったことから、保健所は地域の特定の社会的弱者の支援がメインで、あとは食品衛生、苦情で多いのは野良犬野良猫問題、といった感じで、多くの勤め人にとっては、あまり身近ではない存在になっていた。所長は医師だが成り手は少ないため複数箇所の兼務はよくあることで、特定の人たちと関わることの大変さはあるものの、ある程度予定調和の中での対応であった。休火山のような状態であったことで、本来持つ危機管理的役割は忘れ去られ、20世紀末には統廃合が積極的に行われたこともあった。休火山が活発を再開した状況になり、早急な体制強化を求められる事態になったが、人材とノウハウの厚みを失った組織が、20年かけて壊してきたものは、再建まで同じぐらいかかる。
人材の職種間の融通は、さまざまな危機に対応する自治体にとっては喫緊の課題であるだろうと思う。そのためには業務の標準化とあわせ、業務をアシストする情報システムを活用することで埋め合わせるしかない。危機の多様化とサイクルの短期化が進んでいる状況においては、危機が起こるたびにアリバイ作りのようにその危機に対応した仕組みを考えるような、個別対応は次の危機に役立たなくなっている可能性が高く、役所のロジックモードでは遅すぎるので、即座に対応といっても効果が発揮するまでに最低2年はかかってしまう。先進事例はなくはないが、それを研究して一年過ごしていると、もう一度先進事例を学ぶことになる。この先進事例研究もアリバイ作りだと知ったうえで、裏側では週単位でPDCAを回すことが求められる。
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