十年前に急拡大した「海」に対する人々の思いはさまざまである。海面上昇による浸水地域の拡大は、ゆっくりだが確実に、低地から人々のすみかを奪っていった。海からの全面的かつ持続的な侵襲は人々の精神も蝕み、その対応を求められた中央政府もその負荷に耐えられずに崩壊した。政府の崩壊は外敵の侵入で国そのものが地図上から無くなるようなわかりやすさではなく、不安を抱える世論に急かされて海面上昇による浸水を食い止める途方もない大堤防計画の建設を余儀なくされ、一方でそうした対策が追いつかず、拡大する一方の浸水地域への補償も行い、都市部の浸水がもたらすインフラの分断や、廃墟と化した高層建築群の残置による治安悪化や生活環境の悪化への対応、といった個別の地域事案にも向き合うことになった結果、政府組織が総崩れしてしまったのである。
コメント