ハマること

 「ハマる」という言葉は、良い意味でも悪い意味でも使われます。特定の対象に、その人の持てるお金や時間、つまりは人生を相当程度費やして、生き甲斐にしている状態を指します。多くの人の価値基準から見て、明らかに「そんなものにお金や時間を費やす価値があるの?」と思うようなハマり方であり、さらに、どちらかといえば、他人に迷惑をかけたり、親を心配させたりするようなハマり方が、悪い意味でのハマり方とみなされます。外部から見ると荒唐無稽に見える教義を持つ新興宗教を信じるようなことは、悪い意味でのハマり方の典型ですし、年甲斐もなく少女アイドルを追いかけ回すとかいうのは、ストーカーになるとか極端なことをしなければ、悪い意味で使うけど、毒がないハマり方というところでしょうか。一方で、良い意味でのハマり方というのは、ニッチな研究一筋で、それが結実して社会的に大きな評価を得るとか、趣味の領域だけれども、社会的には健全とされる趣味に分類されており、極めることで一冊の本を書けるというようなことでしょうか。良い意味でハマると使う場合は、社会的な有用性のようなものが、一つの価値基準としてあるように思います。ただ、ハマるというのはコントロールが非常に難しいもので、ハマるものがない人もいるでしょうし、いくつもの対象にハマる人もいるでしょう。

 また、その人の人生を考えると、どんなものであれ生き甲斐にすることで充実し、人生の終わりに臨んで、ハマってきたことを最後まであて頼りにして死出の旅に向かう、その先があるのかはわかりませんが、少なくとも今の自分とは別物の世界であるなら、その人にとっては良いハマり方をしたと言えるのではないでしょうか。もちろん、ハマればその分、お金や時間を費やし、衣食住や恋人、結婚などのリア充に恵まれないかもしれませんが、死を前にすると、あんまり関係ないのかもしれません。宗教は胡散臭いと思われながらも、ハマるものの代名詞として存続し続けているのは、この、死という人生の最終局面で役に立ち得ると思われているからで、さまざまな教義や教団があるのは、人それぞれ、ハマるものは異なるので、その価値観の多様さに応じた、存在価値があるということだと思います。

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